「平凡ラブリーデイズ」の設定で、ゆるゆる小ネタです。

「ジョジョー何を読んでいるんだー? 貴様のでかい図体ではその人でも殴り殺せそうな分厚い冊子が文庫本のようだなぁ!」
 昼下がりのリビングにディオの声が響き、仗助は顔を上げた。また余計なことを言ってジョナサンさんのことからかってるつもりっすね。
「ロフトベッドを買おうと思うんだ! 最近うちの博物館に入った新人くんが一人暮らしをしていてね、ワンルームだけどロフトベッドだから結構広く感じるって教えてくれたんだ」
 ほら、僕の部屋ってとにかく本がいっぱいあって手狭だろう? そう言って首を傾げたジョナサンは、仗助の予想通りディオのからかいの言葉など微塵も気にしていなかった。
「それはそもそもお前が部屋を散らかし放題にするからだろうが。このマヌケが」
「うう…そりゃあそうなんだけど、資料を読んでいると次々と違う文献に載っていたことを確認したくなってしまうんだ……」
「なら、読み終わったら片付けるようにしろ」
「すぐまた読みたくなるような気がして」
「このアホがぁッ!」
 こんな時だけはディオの言い分の方が正しいのだけれど、ジョナサンが相手ではまったく効かない。仗助は助け船を出した。
「まぁまぁ、模様替えも良いもんじゃないっすか? ついでに片付けちゃえばディオの部屋に置いてる資料だってジョナサンさん、自分の部屋に置けるかもしんねぇっすよ」
「そうだよね! さすが仗助くんだよ」




ロフトベッドを買おう! の巻




「ま、待て待て。俺の部屋にまでジョジョの荷物が置いてあることに関して確かに文句を言っているがな。別にいつでも部屋に入って取っても構わんと許可しているじゃあないか。そもそもこのディオのベッドで読むことだって許してやっているのだから別に」
「そんな風に恩着せがましいからっすよ」
「なんだと!」
 ゲロ以下の甘ちゃんすねぇと笑った仗助にディオが噛みつきかけたところでにこにことジョナサンが言う。そうなんだよね、いつもディオに迷惑かけてるもんね。
「ロフトベッド素敵だなぁ。木のぬくもりを感じます、だって。こんなロマンチックな柵つきもあるんだ。お洒落だねぇ」
 ごきげんにカタログを眺めているジョナサンの横で仗助も何の気なしにロフトベッドのページを開いてみた。確かにお洒落だし、スペースの有効利用ってやつか、俺も買っちゃおうかな、なんて考えながら。
 しかし仗助はふと、あることに気付き勢いよくカタログを閉じた。隣のジョナサンは気付いていないが、その向こうでディオは訝しげに仗助を見た。
「ディオ、ちょっと」
 ちょいちょいと手招きし、ディオを廊下に連れ出す。
「なんだいきなり」
「ああいうのって、ほとんどが耐荷重100キロみたいなんスよ」
「……あいつ無理じゃあないか?」
「100キロオーバーの重機関車ボディっすよね」
「大学時代に105キロだと言っていた。あれから痩せたようには思えないし、今でも無駄に身体は鍛えているからな」
 学芸員に不必要な無駄な筋肉だと鼻を鳴らしたディオだったが、それならばディオも似たようなものだと仗助は思ったが言わない。だって仗助は知っている。ディオが身体を鍛えるのはただ、ジョナサンと並ぶのにちょうど良い、その為だけだと。
「まぁ無駄かはさておくとしても」
「買ってから大崩壊でますますあいつの部屋がぐちゃぐちゃになるのは避けたい」
「そういうことっす」
 立派なリーゼントと艶やかな金髪が額をつき合わせて思案する。
「……そうだ仗助、蛍光ペンを持って来い」
「どうするんすか?」
「こうだ!」
 ばーんと口にしながらディオが開いたロフトベッドの掲載ページ。耐荷重100キロの部分には派手な蛍光ピンクの花丸。
「ああ、なるほど」
「こうしておけば、あのマヌケも自分で気付くだろう」
 花丸をつけたカタログをジョナサンの手元へさりげなく置いて、仗助は廊下のディオの所へ戻る。二人はジョナサンの様子を廊下から見守ることにした。
「下の部分が机になってるのが良いかな。木も良いけどやっぱりスチール製のほうがスタイリッシュな感じでかっこいいかも」
 迷うなぁと鼻歌でも歌い出しそうに、見守る二人が息をのんだことも知らないで、ジョナサンは先程仗助が配置したもう一冊に手を伸ばした。
 ぱらぱらと薄い紙がめくられる音が止まる。小さく聞こえていたごきげんなひとりごとだって消える。
 ディオが花丸をつけたページを見てしまったのだと明らかに分かった。肩を落とした大きな背中は、もちろん小さくなんて見えたりしないのだけど。
「……あいつ泣くかな」
「いやさすがに大人っすからね」
 泣きはしないだろう。こそこそと二人は言い合う。
「あんな遠回しなやり方よりもはっきり言ったほうが良かったんじゃあないか」
「花丸を盛大につけたのディオっすよ」
 ディオと仗助は顔を見合わせて眉尻を下げる。どうしよう、ジョナサンはいつだって驚くほど前向きで病的に大らかだけれど、こういうどうしようもないことで時々ひどく落ち込むのだ。
 ジョナサンが様子を伺う二人のほうを急に向いたから、ディオと仗助はびくりと跳ね上がる。
「そっかぁ、ロフトベッドって僕の体重じゃ無理だったんだね。僕と同じくらいだからディオもダメだね」
「あ、ああ。その、なんだ、ベッドを買ったつもりで新しい本棚を買えば良いじゃあないか。このディオの部屋にいくら置いたってまぁ構わないわけだし」
「そ、そうっすよ! ディオの部屋ってジョナサンさんのものばっかじゃないっすか! ディオだってジョナサンさんの私物みたいなもんだし!」
「いや、ディオは僕のものじゃあないよ」
 どういうことだと仗助に食ってかかるつもりだったディオだったが、きょとんと言い放ったジョナサンの言葉にぽかんと口を開いた後、少しだけしょげかえった。
「…………そうか、俺は別にお前のものじゃあないのか」
「ぷっ」
「じょぉすけぇぇ!」
 思わず噴き出した仗助に、いよいよディオが掴みかかって喧嘩にでも発展しそうになる直前、ジョナサンが勢いよく立ち上がる。
「よし! ロフトベッドは諦めるけど、収納を考え直すよ!」
 せっかくカタログをもらってきたわけだしねと握り拳を掲げたジョナサンに巻き込まれ、次の休日には男三人、大掛かりな模様替えが行われることになったのだった。





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