空条承太郎はその小さな体から発しているとは思えないほどの威圧感をもって花京院とポルナレフの眼前に浮かんでいた。 heavenly days(2) 「かきょういん、願いをみっつだ」 「いきなりそう言われてもね。どうするポルナレフ?」 「うおおお、写メだッ! シェリーに教えてやるんだ。いや待てよ。どうしてお兄ちゃんは呼び出せなかったの? みたいなことを言われるかもしれないな。それはツラいッ! どうしよう花京院ッ!」 「……」 「ガッ……!」 相談相手にはならないし、少しうるさいなと思ったので花京院はポルナレフに肘鉄を叩き込み黙らせて、玉露の紅茶王子に向き合う。 ちいさな王子様は背筋を伸ばした、というよりも反らした、と表現するのが相応しいほど真っ直ぐに胸を張っている。ポケットに手を突っ込んだままの承太郎をまじまじと見つめて花京院は言った。 「なんというか……精巧だね」 まさにミニチュアサイズの身体が纏う衣服にはいくつかの装飾が凝らされており、帽子には金のバッチのようなものが留められている。襟元には小指の先ほどの大きさしかないチェーンがついていた。 「かきょういん、俺の話を聞いているのか? 俺は紅茶王子。ご主人様の願いを叶えるのが俺たちの仕事。てめーの願いを言ってみろ」 みっつだ、とポケットから手を出し、ちいさな指が三本、立てられる。 「かっわいいね」 「なんだと」 怒ったのか、拳が握り締められるのを見て花京院は相好を崩した。おもしろい。 ふよふよと浮かんだままの承太郎を下からすくい上げるようにして持ってみる。素直に手のひらに立つ承太郎には重さがあった。 「だからさ、そんなこといきなり言われても困るんだよ。メルヘンやファンタジーじゃあるまいしって思うけど、現に君は現れてしまったからね。君が玉露の紅茶王子なのは認めよう。だけど願いを叶えるだって? ノーリスクで? 魂やら寿命と引き換えだったりしないのかい? 話がうますぎるし、どういう願いまで可能なのかが明確じゃあない。仮に僕の願いが犯罪行為だとしたらどうだい? それを君が行って、僕はお咎めなしと言えるかい? アフターケアは万全かな?」 相手に口を開く暇を与えずそこまで言ってにこりと笑った花京院を見上げ、やはり承太郎は拳を握り締めた。 「かきょういん、てめーは面倒なご主人様のようだな…」 おや、いよいよ怒るかなと花京院が思った次の瞬間だった。ドン、と爆発したような音が響く。気絶していたポルナレフすら目を覚ました。 「花京院ッ! 人を肘鉄で落としやがっ……て、どちら様?」 「あ、あれ?」 「ご主人様、てめーは俺を怒らせた」 呆気にとられて見上げる二人の前で承太郎の学生服の襟につけられたチェーンが揺れた。やれやれだぜと帽子の鍔の位置を直す。 手のひらの上で花京院を見上げ、小さかったはずの王子様は、花京院もポルナレフも越えるほど恵まれた体躯の青年に変身していた。 ▲ (130907)
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