双子であるということはつまり身近に誕生日を同じくする誰かがいるというわけで、同じ日に同じだけ祝われる。生まれた時からおめでとうも二人分、似たようなものを欲しがるからプレゼントも二人分、ありがとうもやっぱり二人分だった。
 いつからかそれは三人分になった。なんの因果か那月とも誕生日が同じだったから。
 おめでとうを言い合うのは少しばかり照れ臭かったけれど、ささやかなプレゼントを贈り合う、子供だけでするままごとのような誕生日パーティーは楽しかった。
 だから、誕生日は面映ゆさこそあれど、厭わしく思うような日じゃないはずだ。




February14




 灰色の雲はもう少し気温が下がれば雪を降らせるだろう。こんな空の下でコートもマフラーもなしで所在なさげに立ちすくんでいるような人間を俺は馬鹿だと思う。
 いつだったか、此処で聖川に殴られたのだというこの場所のことを、こいつを追う女の子達は誰も知らない。だからレンは此処にいる。
 多分、この学園だからじゃない。今までだって、どこでだって、追いかけ回されては何人、いや何百人もの女の子からプレゼントを贈られてきたんだろう。
「部屋に帰ったら説教されるぜ。覚悟しとけよ」
「聖川にかい?」
「お前の分まで渡されて、いちいち律儀に礼を言ってた」
「だろうね」
 一人になりたい時、ひどく寂しい時に此処にいる。サックスだけを相手に、紛れやしない哀しみを吹き込む。
 此処に逃げ込むことを知って、一人になりたいのだと分かっていて、それでも此処に来る俺を疎ましいと思うかもしれない。酷いことをしているのかもしれない。一人になりたい人間を、放っておいてやる優しさが俺に足りないだけかもしれない。
「お前さ、なんで今日に限って"レディ達"の相手、ちゃんとできねぇの?」
「誕生日だから、かな」
 肩をすくめて、なんでもないことのように言うけれど、そんな風に言うこと自体がもう普段と違うって気付いてるか。
「それがどうしたよ」
「年度末、決算前の製菓会社の販売戦略の日。神宮寺の広告塔、お飾りの三男坊にぴったりなバースディだろ」
 恵まれた体躯も艶のある声も、悔しいけれど俺に足りないものを大概持っているのに、なんでこいつはこうなんだろう。
 他人と比べて自分の幸せを感じろなんて思わない。それでもだ。
「ばかじゃねーの」
 チョコを贈られすぎて苦手になっただとか、そんなちょっと微笑ましいエピソードで隠して、自分の誕生日を素直に喜べないこんな馬鹿を俺は知らない。
「レン。お前、俺の誕生日知ってるか?」
「六月九日だっけ?」
「そう。しかも、ふたご座。出来すぎだろ。その上、那月もおんなじ誕生日ときた。偶然ってこんな風に簡単に重なるんだよ。たったの三百六十五分の一だ。二月十四日はそりゃ日本じゃまるでチョコの日だけど、本当は愛の証を交換し合う日なんだろ。そのくだらねぇこじつけ、こっちにすればいいんだよ」
「おチビはいつもキツくて、それからとても強いね」
「ばかじゃねーの」
「二回目」
「何回でも言ってやるよ。ほら」
 レンの頭に俺は自分が被っていたハットを載せてやる。少しだけ背伸びをしなくちゃいけないのが悔しい。
「なにこれ」
「バレンタインにお前になにかやるとか、気持ち悪いから、でも誕生日だから特別だ。そのしょげた顔、隠すのに貸してやる」
「おチビはキツいけど優しいね」
 チビって言うな。図体ばかりでかいくせに子供みたいなやつが俺の周りには多すぎる。
 目許を隠したまま、だけど困ったように笑うから、だから俺はハットを貸してしまったことをちょっとだけ後悔して俯いた。今度は俺が表情を隠せない。

 たったの三百六十五分の一の、だけどそれは奇跡の日。いつかお前もそう心の底から思えたら、いいのに。






(Happy Birth Day to Ren.2012/02/14)





(120216)