――どうした?
 ――綺礼殿からいただいたのだ。
 ――なんだそれは。
 ――アメチャンというそうだ。
 ――アメチャン?
 ――そう言って下さった。
 ――ふむ…ラテン語だろうか…?
 ――いや、changとは支那の言葉ではあるまいか?
 ――いやいや、サンスクリット語でなにか女神の意味があったのでは?
 ――そんな女神はいなかったはずだが。
 ――それに綺礼殿は神父であらせられるぞ。
 ――ではこれはなんなのだろうか。
 ――うーむ……




「ほら、あめちゃんだ、とマスターが言った」




「…………なにをしている」
 低い声が響いたのは何十もの黒い影が首を捻り、知恵を絞った唸り声を上げた瞬間だった。
 ――綺礼殿!
 ――きれーどの!
 ――マスター!
 ――きれい殿!
 ――ますたっ!
 わらわらと群がってくるアサシン達を綺礼は指揮者のように両の手を振って制した。
「とりあえず一人、概要を話せ――アサ子」
 ――はっ。
 綺礼の言葉に応じ、女性のシルエットが浮かび上がる。
 ――アサ太郎がいただいた、アメチャンなるものについて話しておりました。アメチャンは我等が英霊として現界した際に与えられた知識にないものだったのです。
 綺礼はアサシンの全てに名をつけていた。女性のアサシンはアサ子にアサ美。アサ太郎にアサ介。大柄で力士のようなアサシンはアサニシキにアサ青龍にアサボノなど。
「…………」
 アサ子の説明にうんうんと頷きながら他のアサシン達は綺礼の返答を興味津々と言った様子で待っていた。
 見えないはずの瞳がらんらんと輝いているようで、綺礼はそこで全員待つようにと言いおいて部屋へと戻った。

 アサシン達が全員言いつけを守り、待っていると綺礼が自室から大きな袋を持って現れた。
 そしておもむろにその口を開いた。アメチャンとは、飴ちゃんだ。
「この冬木より他の地を知らぬお前たちは知らない。だが事実としてあるのだ。この極東の地のとある地域において話される言語の法則に従えば、飴にちゃんを付けるのだ」
 アサシン達は手のひらに乗せられた飴を見つめて各々関心したように仮面の下で頷いた。
 ――飴のことだったのですね!
「そうだ」
 ――飴、ちゃん…!
 ――飴ちゃん!

 声を揃えて礼を言うざわめく影に綺礼は小さく頷いた。
 最初から全員に渡すつもりだった。仲間はずれを厭うアサシンの為、準備はしてあったのだ。
「私は部屋にいる。包み紙はきちんとまとめて捨てるように」
 分かりましたと頷いたアサシン達に背を向けた綺礼の耳に声が聞こえた。

 ――綺礼殿が飴ちゃんを下さった!
 ――マスターが我等に、飴ちゃんを下さった!
 ――我等全員に下さった!
 ――我等、全員に!

 ざわざわとしたアサシン達の声はその黒々とした姿に似合わず明るく響くので綺礼は思った。今度はチョコレートを買ってきてやらんこともない。





(120701)