この世のあらゆる法則を無視して、しかしそれを起こすのがスタンド能力というものだ。そのスタンド能力すらも遥かに凌駕する世界にジョルノはいる。時間も空間も超越している。 此処は、総ての星の輝きが巡り混じる場所だ。 ラ・フォル・ジュルネ 一度失ったはずの仲間達との再会を許されても、生き残った側へは制限があった。死んでしまった仲間達に対して、そこから先の未来、彼らが亡くなったこと、そういった類の話を口にすることは出来ない。未来を生きる者への代償だった。 たとえば少し遅れてやってきたフーゴ。彼に顛末を聞くことは出来ない。どこまでを知っている彼なのかを確認することは不可能だった。出来ないようにされている。 失った仲間達の誰にも、決して冒険の顛末を語ることは許されていない。あまりに深く刻まれた因縁と血族の流れにだけ、不思議な感覚と共にほんの少しだけのやりとりを許される。 知らない者同士ならばそれなりの言葉、仲間であればかつて交わした会話、それだけの言葉であらゆる空間をバトルフィールドとして拳を交える。 世界がそうして制限するのならばそうでないとならない理があるのだろうとジョルノは納得している。取りこぼしてしまった全ては、この世界でだって取り戻せやしないのだ。 ある者にとっては僥倖、そうでなくとも驚きと共に再会を懐かしむ、此処はひどく優しい世界だ。 大柄な人物が多い中でその人の身長はごく普通の部類に入る。それでもジョルノからすれば精悍な顔は見上げるほどの位置にある。加えて高く立てた銀の髪。 「あの、ポルナレフさん…っ!」 「気安く人の名前呼ぶなよ。おめぇらのことなんて知らねぇって言ってるだろ」 剣呑な色を乗せた瞳がジョルノを射抜く。再起不能になる前の、騎士然としていながらもまだ青年らしく幼さすらも見せる人。 この人に辿り着くまでまだまだ遠いのだと見せつけられて、どんな未来も伝えることは許されず、触れることも、慕わしく会話をすることも出来ない。 「不躾な態度を取ってしまったことをお詫びします。ただ、すみません、あなたが僕らの仲間にとても似ていて、驚いてしまっただけなんです」 未来を語ってはならない、その制限すら与えられない者もいる。ジョセフ・ジョースターがそうだという。かつて同じ師の許で修行し、共に戦い、亡くしてしまった友がいた。『当時のジョセフ』は何も知らない友人としてこの世界に降り立ち、『未来のジョセフ』はその事実すら奪われて邂逅を果たしたのだとジョルノは聞いた。 ジョルノがあくまでも殊勝な態度を取ればポルナレフも態度を軟化させる。兄貴然とした微笑みで懐に入れてしまう。これもまたジョルノの知るポルナレフを垣間見せる。 ジョルノは小さく唇を噛み締めて、いつか剣を教えて下さいと笑う。此処でだってあなたのほうが僕より大人で、それが少しだけ悔しい、と心の中だけで言う。あなたの未来を知っています。導き諭す優しい人であるあなたを、知っています。 だけど僕の知らないあなたが此処にいる。両の脚で大地を踏み、凛と立つ姿を僕は知らなかった。この目で見られるだなんて思ってもみなかった。それが嬉しくて、苦しい。 ジョルノは言えない。未来のあなたが僕らに、いいえ、僕にとってどれだけ大切な人であるか。 軽く握った拳にゴールド・エクスペリエンスが気遣うように触れた。ああそうだとジョルノは思う。拳を振るった覚えなどないのにこれはまるで僕らの能力。 ジョルノ・ジョバァーナは考える。鋭い痛みをゆっくり味わうということはこういうことなのだろうか。 ▲ (131014)
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