スタンドはいますが、石仮面はなさそうな世界です。

 まるで洗礼のようだと思った。
 かの人は厳密には供給者でない。だから他者に力を分け与える時、それは通常とは異なる方法を取る。




幸福と水をやる




 初めてその人に会ったのは、そりの合わない従兄弟に連れられて、無理矢理だった。
「ジョージョォー! このバカの燃費の悪さをどうにかしろ」
「バカだと…」
 首元を掴まれて猫の子でも放るように投げつけられた俺をいとも容易く受け止めた巨体の持ち主。
「はじめまして。ディエゴ・ブランドーくんだね? 僕はジョナサン。愛称はジョジョだよ」
「はぁ」
 気軽に呼んでねと微笑んだ顔を俺はただ見上げていた。
「やっぱり、なんとなく似てるね」
「バカなことを言うんじゃないッ!」
 喚くディオのことは無視してジョナサンは俺に視線を合わせた。君、パートナーはいないのかい?
「SPW財団から最低限のパックは支給されている、から」
「そんなだから燃費が悪いんだ。それにガリガリじゃあないか」
「それは馬に乗るからだ」
「へぇ、馬かぁ。馬術部なのかい? 素敵だなぁ。僕も乗れないかなぁ」
 頷いた俺をジョナサンはキラキラした瞳で見た。
「お前みたいな巨漢が乗れるわけないだろう、馬が可哀想だ」
 ばーかばーかとディオはまるで子供じみてジョナサンをからかうけれど、ジョナサンのほうはあまり気にしていないようだった。
「でもディエゴくん、馬に乗るなら途中で充電切れなんてしたら危険じゃないかい? パートナーは必要じゃないかな。財団からのパックだけじゃ、足りないんだろう?」
「……どんなに飢えても気高くなければ受け付けない」
「ふむ」
 顎に指を添え、考える様子を見せたジョナサンの肩を不意にディオが抱いた。
「だからお前のバカみたいな特異体質を介せばこの偏屈の燃費も少しは良くなるんじゃあないかと思ってな」
「さっきからバカバカうるさいよディオ」
「あの、俺は別にッ!」
 放っておくと際限なく軽口を交わしていそうな二人を止めるために大きな声を出してしまう。口を開けた途端、口端に貼った絆創膏が外れそうになって慌てて押さえる。
「ああ、ごめんねディエゴくん。ディオに無理矢理連れて来られて大変だったよね。僕は供給者じゃないんだけど、力をあげることが出来るんだ」
「供給者じゃあない?」
「こいつは特異体質でな。まぁお前も似たようなものだろう。まったくエネルギーを消費せずともその絆創膏から流れ出てしまうあたり」
 そうだ、これが外れたら俺の生命力は勝手に流れ出てしまい、いよいよ充電が切れてしまう。
「君の言う気高さ、に見合う自信はないけれど、君さえ良ければ僕から力を渡しても構わないかな?」
 ジョナサンは首を傾げ問うて来るから、俺は頷いてしまう。嫌だと思えば、気高くなければ、絆創膏を剥がして全て放出してしまえば良い。

 ディオはちょっと離れててね。じゃあ失礼するよ。そんなのんびりとした口調に似合わないほど、俺に向かって伸ばされた指は美しかった。
 腕に絡みつく蔦が指先から伸び、頭に水を注ぐように触れ、頬を撫でる。そうして力を分け与える茨はその見た目に反するように優しい。
 行為はまさに洗礼の儀に似ていて、灌水礼のようだった。流れ込んでくる力は太陽の光のイメージに似ている。
 もし、もしもこの世に生ある聖人がいるのなら、気高い魂が宿る人の子がいるのなら、この人がいいと思った。





(130810)