「うるさい、山口」
 実際、そんなにうるさいわけではない。頬に散るそばかすと、気弱な態度の所為でいじめられていた、元々は小さな少年なのだから。
「うん、ごめんツッキー!」
 何をしていてもどんな会話を交わしていても、その声だけは異様なまでの速さで返ってくる。酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すように、当たり前の反射として、ひとかたまりに吐き出される。ごめんツッキー。
 唯一の得意な武器はサーブのくせに、謝罪の速さだけは相手コートに突き刺さるスパイクばりだ。




勝手に輝いていろ。




 月島は知っている。憧れに光る瞳がどれだけ人を蝕むか。その憧憬に応えられないと気付いた時、どれだけ心を苛むか。
 兄のことを傷つけたのは自分だと永遠に思い続けるだろう。それは兄に許されるとか、兄が己を許すだとか、それとは別の次元の話だ。
 兄がくれたスポーツグラスは世界を切り取る。純化された視界は再び幼馴染みを映す。そう、幼馴染みだ。
 小学校から、中学も高校も同じ。共にバレーをしてきた。山口はずっと月島を追っている、まるで雛鳥のようにと人には見えるだろうが実際はそうではない。
 どんなに邪険に扱っているように見えても、他人がどう感じようと、山口は月島を全て許容する。そう、許容しているのはいつだって山口のほうだ。
 山口の瞳は幼い頃の兄を見ていた自分に似ている。同時に、自分が不用意な言葉を投げつけてしまった時の兄にも似ている。
 山口は月島にとって兄であり弟であり、鏡に映ったかつての自分だ。憧れ続け苛み続け攻め続け、そして許し続ける。
 ほんとうは分かっている。兄でもなければあの頃の自分でもなく、山口は山口で、それこそ月島とは別に部活後に秘密の特訓をしてみたり、そういうこともある。
 自分達は別々の人間で、幼馴染みで、チームメイトで、恐らく最高の友人だ。だからこれは自分の勝手な投影で祈りだと月島は充分すぎるほど分かっている。

 山口のあの瞳を恐ろしいと思えるほど、綺麗な心は持っていない。勝手に輝いていろと、だってそれは山口の自由だ。
 だけど月島は、山口の瞳が曇ることなどないことを、祈るように盲信している。信じるとは裏切られるなどと微塵も思わないこと。もうそれは狂気と同義だ。
 頼むから輝き続けていろ。





(150422)
月→山…と言いつつそんなに腐っていない気がしますし始まってもいません…崇拝系概念ホモです。