黒尾は、部活の時以外には目が開いていないとよく言われる。いつだって気怠げなだらしない顔だと。 失礼なと笑ってみせるけれど、物理的には確かに生まれもっての垂れた目尻は常に眠そうな半目を作り出すのに一役を買っているし、内面的にもあながち間違ってはいないかもしれない。爛々と輝くのは、確かに部活の時、バレーが絡む時くらいだ。 その黒尾の瞳が大きく開かれるほどの出来事だった。 問題です。天から降ってくるもの、なんだ? 雨、雪、雹。雷も落ちるって言うな。星もそうかな。そうだ、星みたいに人が降ってきた。驚きながらもどこかで黒尾は呑気に考えていた。 空から何かが降ってきて、子供だと認識した途端に、それが自分の眼前に倒れ込んだのだ。 弱っている。そう、直感した。 見慣れぬ民族衣装のような格好は気にならなかったと言えば嘘になるが、それよりもまず眼前の子供に手を差し伸べようと思った。 呻き声で意識があることを知る。自分を見上げた子供。黒い髪は短い。表情を隠すものはなにもない。 大丈夫かと伸ばした手に怯えたように瞳が揺れたので、ポケットから取り出したハンカチで頬を拭ってやった。 「感謝を、します。だけど、あなたはちがう」 黒尾の手を借りて立ち上がった子供はふらふらとした足取りでどこかに行こうとするから、慌てて掴まえる。 「こらこら、待て」 空から降ってきたことは脇に置いたって良い。だけど怪我をした、しかも子供を放っておけるほど、オニーサンひとでなしじゃないんだな。 にぃ、と口角を上げる様子を肘を掴まれたままの子供は見た。 I'm just a foolish creature 赤葦は探しに行かなければならなかった。そうでなければ国が沈む。 麒麟は鏡。良き王の許であれば美しくあり、悪しき王ならば血を吐いて己の穢れで身を滅ぼす。しかし、今の赤葦には王がいない。 獣の姿で天を駆けた。仙籍にない民がいくつか世代を跨ぐほどの年月を費やし、国中を、外の国を、巡った。それでも王はいなかった。 あとは蓬莱。もうそこにしかなかった。天意を受けた王たらん者はきっと海客だったのだ。そう思って蝕を起こした。最後の手段だった。 赤葦は蓬莱が苦手だった。人の形をうまくとることが出来ない。 それでも見つけなければならない。見つけて、帰らなければならない。 だから、違えてはいけない。 ▲ (150311)
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