体重をかけないようにと顔の横に置かれた手に力が込められたのを感じる。 旧校舎三階、一番奥にある図書室のもっと奥深く、書庫の真ん中に置かれたソファー。此処には誰も来ない。 最初は偶然だった。ふらふらと迷い込んだ後ろ姿を見た者がその銀の髪を幽霊と見間違えた。それからは誰も近寄ることのないようにと意図的に立ち回り、自分だけの空間を作り出した。 元来の話好きな性質に加え、柔らかい物腰に滲ませる毒は不思議と人を寄せ付ける。 ウンバラは特有のおもしろおかしい語り口に隠しながら、恐ろしさだけは植え付けるように噂をばらまいた。そうして誰も此処へは立ち寄らないようになった。今ではもう肝試しにすら使われない。 my dear accomplice 手首から腕へ、薄く盛り上がる筋肉を順に見上げてゆく。片手だけで自重を支え、後ろ髪を縛っていたゴムをほどく様子をまるで初めて見るものであるかのように少しだけ瞳を見開いた。 一房だけ伸ばしている橙の髪。光を背にした肩のラインにそって、それは一瞬だけきらめいてウンバラの元へ落ちてくる。 「良い男になりましたねぇ、レジェッタくん?」 「君づけやめろよ」 不機嫌な言葉に笑みを深める。 ウンバラは自分に覆い被さる男から落ちてきた髪を辿るように手を伸ばす。 「ですがわたくし、レジェッタくんよりふたつも年上ですからね」 「もうお前黙ってろよ」 引き寄せるようにして頭を抱きこめばそのまま首筋を甘噛みされた。反射的にひくりと鳴った喉を舐め上げたレジェッタが捕食者の目で唸るから瞳を閉じた。 所々擦れてしまった皮張りのソファーは男二人が身を預けるには狭い。寝具でないそれに並んで身を横たえることは出来ない。 互いの汗と体液にまみれたまま弛緩した身体を不器用に気遣う動きに身を任せながらウンバラは薄く開いた目でレジェッタを眺めた。 レジェッタの身長は今後も伸びるだろう。手も足もそれを見越したように大きくなり、既に大人の男のものだったし、なにより今の横顔はもう、普段クラスの友人達とふざけ、笑い合う時には決して見せることのない精悍な青年のそれだ。 ふたつも年上だと大人ぶって見せたけれど、たったの二年だ。社会に出れば些末な差でしかなくなる。 そしてそれが関係なくなる頃にはきっとこんな所には来ない。こんな風ではいられない。 このソファーは小さく狭い。互いに育ちゆく身体をいつか受け止めきれなくなるだろう。 だから二人は、此処でしか交わらない。 ▲ my dear accomplice (私の愛しい共犯者)
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