「同じ意味でいろんな言葉があるのね。みんな今喋ってるこの言葉に統一しちゃえば便利なのに」 ほんと、人間っていちいち面倒なんだから。そう拗ねたように言ったアスパシアの、その唇が笑んでいたことを知っている。困ったように笑いながら、瞳には人間という興味深いものへの好奇心と愛しさが宿っていた。 光について 「まぁ、姫様がEVUUでお使いだった言葉だって実は人間に通じなかったりしますしねぇ」 「えっ、そうなの?」 ウンバラの言葉にアスパシアの大きな瞳はより一層大きく開いて素直に驚きの感情を示す。 「ええ。わたくしの言葉が人間に聞こえないのも、今こうして喋ってるこの言葉や音そのものが人間界には存在しないものだからなんでございますよ」 「じゃあなんで私は人間の言葉が分かるし通じるのよ?」 「そりゃあ、姫様は人間界に来た時点で自動的に分かるよう設定されてるからですよ。バイリンガルってやつです。チートと言えばチートですけど、通じないとシナリオ展開しないじゃないですか」 「またあんたはわけの分かんないことを……」 「あ、ちなみにわたくしも人間の言葉を聞き取ることは出来ておりますのでご心配なく。人間に聞こえる言葉で喋るのは無理なんですけどね」 精霊のままでは。 ウンバラは最後の言葉だけ、心の内で呟いた。精霊である己の分はわきまえているし、それは今の己の願うべきことではない。 人の子はいくつもの言葉を持っている。 たとえば頭上に輝くたったひとつの太陽。 「ソル、シャムス、アラミダル。もっとあるけれど」 言葉を自身、太陽を主に置き換えて、ウンバラは思う。わたくし、は。 全ての姫様の選択が正しいのだと知っています。その運命を最後までこの目で見届けることなく人の子や新たな精霊、姫様自身や御父上に姫様の未来を委ねるとしても。 わたくしはずっと、全ての姫様が幸せであるよう祈るのです。 運命は分岐する。遠い昔に分かたれた数多の言語のように。けれど決してたった一人の、たったひとつの絶対は揺らがない。 太陽がどう呼ばれようと変わらず輝き続けるように。 ▲ (100822)
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